M&Aは多くの手続きを経ながら進められていきます。またその手続きの中で、さまざまな書類や契約書が作成され、交付されます。
主なものに「意向表明書」、「基本合意書」などがありますが、これらは同じような時期に作成・交付され、また、記載する内容にも似た項目があるため、両書類の位置付け、目的などを区別することが難しい面があります。
そこで今回は、「意向表明書」と「基本合意書」に焦点を当て、その位置付け、目的、内容、両書面の違いなどを法的な部分も含めて解説していきたいと思います。

「意向表明書」と「基本合意書」の違いと法的拘束力

M&Aで必要とされる代表的な書面である「意向表明書」と「基本合意書」について見ていきます。

「意向表明書」とは

意向表明書とは、トップ面談・交渉の中で、買手候補側の企業から売手側企業へ提出する書類です。その主な目的は、M&Aに対する真剣さ、本気度の意思を表明すること、そして、希望する買収価格や条件を提示することです。
一般的には、M&Aアドバイザーが雛形を提供し、買手候補側の企業が作成・提示します。また、その記載事項としては次のようなものがあります。

M&Aスキーム

「株式譲渡」か「事業譲渡」などの採用予定のM&Aスキームについての意向。

希望買収価格

あくまでも希望する価格で、今後の交渉の中で具体的に詰めていくといった意向。

デューデリジェンス(DD)

今まで提供された資料のみで判断するのではなく、デューデリジェンスによる精査を経て今後の交渉を進めていくといったことの表明。

今後のスケジュール

今後予定しているデューデリジェンス、最終譲渡契約、クロージングについての大まかな見通し。

「基本合意書」とは

「意向表明書」の交付により、M&Aの意志が確認され、買手候補側の企業が絞り込まれると、具体的なM&A条件を内容とする「基本合意書」の作成となります。こちらもM&Aアドバーザーが関与しながら、必要に応じて弁護士、税理士、公認会計士といった専門家の協力を得ながら進めていきます。
主な記載事項は、以下のようなものになります。

具体的な買収対象の特定と買収条件

「株式譲渡」であれば、株主、株式数、対価といったもの、「事業譲渡」であれば、買収対象の事業の特定とその対価、その他附帯条件の具体的内容。

デューデリジェンス

具体的なデューデリジェンスの実施期間と調査対象の範囲の明確化。

最終譲渡契約の見通し

通常、基本合意契約から3カ月程度を予定しますが、特約として延期も可能とすることもある。

有効期限および独占交渉権

効率的に手続きを進めるため、3カ月程度を目処とする有効期限と特定の買手候補企業に絞った交渉を可能にするためのもの。

「意向表明書」と「基本合意書」の違い

同じ時期に作成・交付される書類で、記載内容も似ていますが、両書類にはいくつかの違いがあります。
「意向表明書」は買手候補側企業のM&Aに対する本格的な意志を相手側に表示するもので、その内容も希望的なものです。
一方、「基本合意書」は、買手候補側企業が独占交渉権を得ることで、本格的な手続きに入っていくスタートラインといった位置付けとなっています。その内容もより具体的なものとなります。
また、「意向表明書」の段階では、売手側企業が相手側企業を選べる立場ですが、「基本合意書」の時点では、買手候補側企業が独占交渉権を持つことで、優位な立場が逆転します。さらに「意向表明書」は、買手候補側企業が相手側に交付する書類であって、正式に株主総会、取締役会などの意志決定機関が関与していません。しかし、「基本合意書」は契約書であることから、双方の意志決定機関が何らかの形で関与してくる、といった点にも違いがあります。

「意向表明書」、「基本合意書」と法的拘束力

基本的に「意向表明書」には法的拘束力はなく、記載内容が履行されなくても双方に法的責任は生じず、違約金、損害賠償も発生しません。
「基本合意書」についても、原則、法的拘束力は生じませんが、近年、買収条件などを除き、特約として法的拘束力を持たせる条項が多くなっています。たとえば、独占交渉権、秘密保持、裁判管轄などです。また、契約条項として具体的内容となっているため、道義的な責任といったものもあるようです。

「意向表明書」、「基本合意書」とも、M&Aプロセスの中で重要な書類です。その内容、違い、法的拘束力の有無などに十分注意して作成することが重要です。