M&Aにおける売手側企業のプロセスの流れは、売手側企業によるM&Aプロジェクトの決定と、M&Aアドバイザーなどとの FA(ファイナンシャル・アドバイザー)契約からはじまります。M&Aアドバイザーや仲介業者による匿名の企業概要書の作成とM&Aによる買収予定企業への開示、これら企業を一定の基準で選別、絞り込み(スクリーニング)、ロングリスト・ショートリストを作成します。さらにこのリストの企業を2〜3社まで絞り込むとともに、秘密保持契約を結びます。そして、これらの企業に詳細で明確な企業概要書を開示します。
 この企業概要書が「IM(インフォメーション・メモランダム)」、あるいは「IP(インフォメーション・パッケージ)」と呼ばれる詳細な売手側企業についての開示情報です。
 では「IM(インソメーション・メモランダム)」のM&Aにおける意味や重要性、そしてその記載内容などについて詳しく見ていくことにします。

M&Aにおける「IM(インフォメーション・メモランダム)」とは

「IM(インフォメーション・メモランダム)」とは、売手側企業に関する社名、具体的な事業内容、本店所在地、主要な営業エリア、従業員に関する具体的な情報、財務内容、具体的な売却条件、その他を記した企業概要書です。M&Aアドバイザーなどの事業者を通して、買手候補企業に開示されるものです。
「ノンネームシート」がA4サイズの紙1枚であったのに対し、文字や図表を交えた20〜30ページに及ぶもので、「IP(インフォメーション・パッケージ)」あるいは、「案件概要書」などとも呼ばれています。

「IM(インフォメーション・メモランダム)」の必要性・重要性

「IM(インフォメーション・メモランダム)」の必要性・重要性といったものは、売手側・買手候補企業双方が、M&Aに期待する戦略上の目的などがより具体的なものとしてイメージできるようになる点にあります。
 売手側企業では、M&Aを利用することで、どれほどの価格で売却できるのかといったものが、より適正な範囲内で把握できるようになること、自社の事業の存続、従業員の雇用確保といったものの実現可能性も明確になってくるといったことです。
 また、買手側候補企業にとっても、M&Aによるシナジー効果が発現され、将来における企業価値の増加が、キャッシュフローなどである程度把握できるようになるといったことです。
「ノンネームシート」による漠然とした希望的観測からは、大きく前進したものになります。
 特に、売手側企業にとっては、「IM(インフォメーション・メモランダム)」内に掲載した自社の事業計画や財務内容を通して、積極的にアピールし、売り込める最後にチャンスですからより重要性は大きいでしょう。
 その後は、買手側候補企業によるデューデリジェンス(DD)により、受動的な立場に移るわけですから、内容の充実した「IM(インフォメーション・メモランダム)」の作成が必要かつ重要になってきます。
 そのためにもM&Aアドバイザーなどの選択は慎重に行うことが大切です。実際に、こうした企業概要書などを作成するのは事業者ですから、経験豊富なM&Aアドバイザーであれば、内容の充実した説得力のあるものを作成することができます。
 一方で、経験に乏しい、あるいはM&Aを積極的に最後まで行わないような事業者に依頼すると、会社案内に直近の財務情報を付け加えた程度のものしか作成せず、M&Aによるビジネスチャンスを大きく損ねることになりかねません。

「IM(インフォメーション・メモランダム)」の記載事項

 記載する事項については、「ノンネームシート」と似た内容にものになっています。ただ、具体的な数値を用いた詳細な内容となります。開示する範囲については、法定されたものではないので、個々の企業により異なってきます。
 また、「ノンネームシート」と特に違った点は、秘密保持契約締結後、開示する情報ですから、企業名はしっかりと表示されます。主な記載事項には、次のようなものがあります。

企業概要 企業情報、事業概要、同業他社との差別化・優位性など
具体的な事業内容 業務フロー、主要取引先など
主な事業所 本社、工場設備、土地・建物などの不動産、その他
企業組織情報 企業の組織図、役員・従業員構成、株主構成など

 このほか、直近3〜5年分の財務情報、具体的な数値による将来の事業計画書などがあります。

「IM(インフォメーション・メモランダム)」は、M&Aの成否を左右するほど重要な開示情報です。特に、売手側企業にとっては、自社を積極的に売り込める最後の場面ですから、M&Aアドバイザーなどと入念な準備をし、作成することが重要になります。