M&Aで会社や事業を売却する場合、売手側企業では、明確なM&Aについての意思決定のあと、プロジェクトチームを結成し、外部のM&AアドバイザーなどとFA(ファイナンシャルアドバイザー)契約を結びます。そして、会社に関する財務、労務、ITなどのデータをもとに開示情報を作成し、M&Aアドバイザーのネットワークを通じて開示します。
 こうして売手側企業に関心を示した企業を、一定の基準でリストアップします。これが、ロングリストと呼ばれるものです。ロングリストをさらに絞り込んだものがショートリストになります。
 最終的には、2、3社まで絞り込み、特定の買手候補企業に独占交渉権を与え、本格的な買収交渉に移ります。
 それでは、ロングリスト・ショートリストとはどのようなものか、詳しく見ていくことにしましょう。

M&Aにおけるロングリスト・ショートリストとはどのようなものか

 売手側企業がM&Aで、多くの買手候補企業を募る方法を、「入札(オークション)方式」と言います。これに対して、当初より特定の買手候補企業と交渉を行う方法を、「相対方式」といいます。
 「相対方式」では、取引先の企業や金融機関、あるいは顧問の税理士や公認会計士といったところから紹介された特定の企業が対象となりますから、複数の候補企業と同時に交渉することができず、不利な条件でM&A契約を結ぶこともあります。
 一方、入札方式であれば、売手側企業に競争優位となり得る経営資源があり、また、財務内容も良好であれば、複数の企業と有利に交渉を進められます。この時、ロングリスト・ショートリストと言った候補企業一覧表が有効なツールとなります。
 それではロングリストから見ていきます。

ロングリストとは

 ロングリストとは、M&Aに際し、売手側企業の開示した情報に関心を示し、問い合わせてきた企業を一定の基準で掲載した一覧表です。通常、20〜40社ほどですが、多い場合100社前後になることもあるようです。

ロングリストの記載事項

 ロングリストでは、ショートリスト作成のための買手候補企業を絞り込むのに必要な情報を記載しておけば十分です。具体的には、買手候補企業の社名、本店所在地、主要な営業エリア、電話番号、URL、メールアドレスといったものです。

基準の設定

 ロングリスト作成の際、設定する基準はそれぞれのM&Aによって、多少異なったものになるとは思いますが、一般的なものとしては売手側企業の立場からは、どれほどの金額で売却できるのか、また、買手側企業にとってどれくらいのシナジー効果が期待できるのかといったことを基準にしていきます。
 この基準をベースに、M&Aアドバイザーなどの協力を得ながら、問い合わせてきた企業についての一覧表であるロングリストを作成します。

ロングリストを作成する上での留意点

 ロングリストの記載事項は、買手候補企業についての一般的なもので、詳細な部分まで記載するものではありません。しかし、その後のM&Aプロセスを進めていく上で重要なものですので、作成する上でいくつかの留意点があります。

⚫︎将来的な視点をもって作成する
⚫︎買手候補企業の立場を考慮する

ショートリストとは

 ショートリストは、ロングリストをベースにより正確で、詳細な内容の一覧表です。数十社あったロングリストから5〜10社程度に絞り込みます。

ショートリストの基準

 ショートリストの基準は、ロングリストのように優良企業だから少しでも高い価格で買い取ってもらえるといったものよりは、M&A本来の目的であるシナジー効果を重視したより実質的なものです。市販されている企業情報などをもとに基準設定します。主な基準は次のようなものです。

より詳細な会社概要

 特に、直近数年の売上げ、従業員数は、M&A後の売手側企業の事業や従業員の存続に大きく影響するため、重要な基準となります。

買収価格

 現実的な希望売却価格と、整合性のある買収価格といった視点が基準となります。

株主構成

 買手側企業の最高意思決定機関の株主総会を構成する株主も基準となり得ます。
 そのほかにも、売手側企業の事業と整合性のある事業か、株価は、自社との相性はどうかなども基準とすることができます。

ショートリストを作成する上での留意点

 ショートリスト作成上の留意点は、基準を設定する場合と同様、M&Aの本来の目的に沿ったものであることです。そして、絞り込む際の基準に優先順位をつけることです。さらに、機密情報の取り扱いには十分な注意が必要です。

 以上、M&Aにおけるロングリスト・ショートリストについて要点を述べました。