「ノンネームシート」とは、売手側企業がM&Aアドバイザーなどの事業者と FA(ファイナンシャルアドバイザー)契約し、秘密保持契約「NDA( Non Disclosure Agreement)」を締結したあと作成される、売手側企業名を伏せた匿名の企業概要書です。必要最小限の企業情報を記したA4サイズの紙1枚程度の簡単なものです。
 この「ノンネームシート」をM&Aアドバイザーなどのネットワークを通して開示することで、関心を持った企業が問い合わせてくることになります。そして、こうした買手候補企業を一覧表にしたロングリストやショートリストの作成手続きへと進んでいきます。
 それでは、「ノンネームシート」について詳しく見ていきましょう。

「ノンネームシート」について

「ノンネームシート」は、企業名を伏せた匿名の簡単な企業概要です。内容も企業に関する一般的なもので、表現も抽象的なものになっています。通常は、A4サイズの用紙1枚にまとめられているため、「一枚もの」などと呼ばれています。
 売手側企業から提供されたデータをもとに、M&Aアドバイザーなどが作成するものです。M&Aを計画している買手候補企業が、M&Aアドバイザー、仲介事業者に依頼してから提示を受ける売手側企業に関する最初の情報です。これに関心を示し問い合わせてきた企業を、売手側企業とM&Aアドバイザーなどが、買手候補企業として、一定の基準に基づき一覧表を作成します。これがロングリスト・ショートリスト呼ばれるものです。
 その後買手候補をさらに絞り込むとともに、売手側企業名を公表します(ネームクリア)。そしてより具体的な内容を記した売手側企業についての概要書である IM(インフォメーション・メモランダム)あるいは、IP(インフォメーション・パッケージ)を提示します。こうした一連の流れから、「ノンネームシート」は、M&Aアドバイザーを仲介として、売手側企業と買手候補企業が、間接的にしろ最初に接するため、「エントリーシート」として重要なものとなっています。
 

「ノンネームシート」の作成手順と記載内容

「ノンネームシート」の作成手順としては、まず、売手側企業がM&Aアドバイザー等を FA(ファイナンシャルアドバイザー)、NDA(秘密保持)の契約を締結します。
 その後、M&Aアドバイザーは、M&Aプロセスを進めていく上で必要となる資料「ノンネームシート」、「IM(インフォメーション・メモランダム)」を作成するために、売手側企業から、各種の検討資料の提供を受けます。検討資料としては、定款、商業登記簿、株主名簿、会社案内、決算書、事業計画、会社組織図、従業員名簿、各種契約書、許認可書などです。
 M&Aアドバイザーは、こうした資料をもとに、売手側企業の代表者や少数の担当者などからヒヤリングを重ねながら「ノンネームシート」などの企業概要書を作成するといった手順になります。
「ノンネームシート」の一般的な記載内容としては、以下のようなものになります。
 まず、秘密厳守と書面の最初に大きく、明確に記載します。また欄外などにも、注意事項として捕捉的に記載します。

企業概要

 事業内容、営業拠点(首都圏、関東地方などと記載)、従業員数(約10名などと記載)、自社の競争優位となる強みなど、売却理由(後継者不足、会社を成長させるためなど)

売却希望条件

 M&Aスキーム(株式譲渡、事業譲渡などの区分)、売却希望価格、その他

財務状況

 直近3〜5年分の売上高、経常利益など

「ノンネームシート」の作成と取り扱い上の注意点

「ノンネームシート」は、企業に関する機密情報など、重要で繊細な情報が関わってくるため、作成と取り扱いには細心の注意が必要です。主な注意点は下記の通りです。

機密情報取り扱い

 企業にとって最重要な営業機密情報や、M&Aに関する情報がリークされることによって企業としての業務が成り立たなくなるリスク、対外的な信用問題に発展してしまうリスクがあります。

個人情報の取り扱い

 企業には多くの顧客情報、従業員情報などがあります。十分な注意を払わずに作成したり、取り扱ったりすることで、損害賠償請求されたりするリスクがあります。

情報の改ざん

 ホームページその他の開示情報が無断で改ざんされるリスクがあります。その結果、対外的信用を失い、業績に悪影響が出てくることが考えられます。
 
「ノンネームシート」は、紙1枚ほどの簡単な企業概要ですが、M&A交渉のスタートとなる重要なものです。また、企業の機密情報や個人情報とも深く関わるものですから、その作成、取り扱いにも細心の注意が必要となります。